2025/11/21
日の出とともに、現場に響くモーター音。今日もオレの出番だ。電動スコップのエルドだ。巷じゃあ俺のことを敬意をこめて「エルド・ザ・電動スコップ」と呼んでいる。悪くない。バッテリー満タン、スイッチひとつで地面を切り裂く。オレの使命はただひとつ――掘ること。それがオレの生きる理由だ。
相棒の人間、タカシはちょっと頼りない。新人のくせにコーヒー片手に空を見上げて「今日も暑いなぁ」なんて言ってる。オレはモーターを低く唸らせてやる。
「おい、タカシ。まだ休むな。地面は待ってくれねぇぞ。」

タカシは苦笑いしてスコップを握る。「わかってるよ、エルド。焦るなって。」
焦るな? 冗談じゃねぇ。地面ってのは生きてるんだ。乾けば固くなるし、冷えれば凍みる。掘るなら、今だ。最適なタイミングを逃すのは職人として恥ずかしいことだ。
オレはスイッチが入る瞬間の「うなり」を誇りにしている。刃先が土を切り裂き、砂が跳ねる。手に伝わる震動。あの感触がたまらない。オレの全身が「仕事してる」って叫んでる。
掘るというのは単なる作業じゃねぇ。地面と対話することだ。柔らかい土、石を含んだ層、古い根の匂い――全部がオレに語りかけてくる。「ここを通るな」「もう少し左だ」「深く行け」ってな。オレはそれに耳を傾けながら、ただ黙々と進む。それがプロってもんだ。
昼になって、タカシが「そろそろ休憩しようぜ」と腰を下ろした。
「はぁ……。おまえはタフだな、エルド。バッテリーが減ってんのに、まだ掘りたい顔してる。」
「当然だ。オレは掘るために生まれた。バッテリーが切れるまでは現役だ。」
タカシが笑って、水筒を差し出してくる。もちろん、オレは水を飲まない。けど、その気持ちはありがたい。オレとコイツは、少しずつ息が合ってきた気がする。そりゃあそうだ、もう付き合いは3年になるからな。
午後の作業。地面の下から古い石垣が顔を出した。タカシが驚いたように声を上げる。「なんだこれ!?」
「慎重に行け、タカシ。こういうのは傷つけたらいけねぇ。昔の人間の仕事だ。」
タカシはオレの声に従って、少しずつ土を払う。見事な積み方の石。まるで、何百年も前の職人たちが「ここを通るな」と囁いているみたいだった。
オレの中で、何かが熱くなる。職人の魂ってのは、時代を越えて響くんだな。オレも、その流れの中にいる。電動でも、スコップでも、魂を込めて掘る。それが職人の道。
夕方、作業が終わるころ、タカシがオレを拭いてくれる。「今日も助かったよ、エルド。」
「礼はいい。オレの仕事をしただけだ。」
でも、ほんの少し、うれしかった。油を差されるたび、オレの金属が光る。鏡のように、タカシの顔が映る。汗と土で汚れたその顔が、妙に誇らしげに見えた。
「おまえ、ほんと職人気質だよな。」
「当たり前だ。掘るってのは、信念の仕事だ。手を抜けば地面が笑う。」
タカシは声を出して笑った。「地面が笑う、か。いいね、それ。」
「笑われたくねぇなら、腕を磨け。オレと一緒に。」
夕日が現場を赤く染める。オレのスコップが光る。その瞬間、確かに思った。オレはただの道具じゃない。タカシと一緒に「仕事」をしてる仲間だ。
夜、コンテナの中で充電されながら、オレは静かに思う。明日も掘る。まだ見ぬ地層がオレを待ってる。地面は嘘をつかない。掘った分だけ応えてくれる。
――だから、任せてくれ。掘るのがオレの仕事だ。